ESTATE GUIDEエステートガイド
修理費用は大家に全額請求してもよろしいのでしょうか?
賃貸アパート敷地内に隣接する空家が老朽のため倒壊し、その家屋が私(借主)の自家用車の上に落下し、損害を被りました。倒壊した家屋の登記上所有者は不明です。この場合、車の修理費用は貸主である大家に全額請求したところ、倒壊直後に大家には口頭で修理費を出していただく了解を得ていたのですが、修理後の請求書を渡した後全額は払えないとの答えでした。
さて、貴殿が被った損害(自動車の破損)は一体誰の責任なのでしょう。本件のような場合、老朽化した家屋を危険な状態で放置していた倒壊家屋の所有者に責任があるということは疑いのないところです。しかし、当該家屋の所有者が不明であるため、駐車場の所有者である家主に対して破損自動車の修理費用を請求できるかというご質問の答としては、「甚だ無理がある」といわざるを得ません。
損害賠償の制度は
(1)損害賠償の認定
(2)損害の類型
(3)賠償の方法という諸点を関係付けなければなりません。
本件の場合は
(1)隣家倒壊による自家用車(貴殿の財産)の破損は、倒壊の恐れがある家屋を放置した隣家所有者の不法行為により、
(2)貴殿の財産に与えた損害と隣家所有者の放置行為には因果関係が認められ、
(3)原状回復に必要な自動車の修理費用及び、付帯費用(修理期間中の交通費など)が金銭によって賠償されます。
やはり、本件の相手方は当該家屋の所有者であり、アパートの家主には賠償を請求する根拠がありません。ただし、貴殿と家主との間において本件駐車場の使用につき、予め隣家家屋が倒壊したときの賠償や自然災害などの不可効力について賃借人の損害担保特約などが存在すれば、契約として金銭の補填を受けることは可能です。しかし、一般的には駐車場内の事故については賃貸人は責任を負わない旨の免責特約が主流であり、このような取り決めは稀であるといえます。したがって、アパートの家主が修理費用の一部でも補填してくれる(恐らく見舞金という趣旨)というのは貴殿にとってはありがたいことですから、あまり無茶を言わないほうが得策であると考えます。なお、民法606条は賃貸人の修繕義務について規定していますが、これはあくまで賃貸借の目的物(当該アパート又は付属物としての敷地内駐車場)に関し、修繕が必要な事態が発生した時の規定ですから、本件について類推して適用はできません。